カンボジアの街を歩くと、老若男女を問わず、カラフルな布を身にまとっている光景に出会います。この布こそが「クロマー(Krama)」と呼ばれる、カンボジア人にとって生活に欠かせない伝統的な万能布です。
美しい色彩と独特の格子模様が特徴で、単なるファッションアイテムに留まらず、生活のあらゆる場面で使われています。
今回は、そんなクロマーの歴史や用途、文化的な意味、そして現代のカンボジア社会における役割について、たっぷりご紹介します。
クロマーの歴史

クロマーの起源は古代クメール王朝時代にまでさかのぼると言われています。当時から織物技術が発展していたクメール人は、気候風土に適した通気性の良い布を求め、手織りによるクロマーの生産を始めました。
クロマーはもともと実用性を重視した生活必需品であり、複雑な儀式や装飾品とは異なり、庶民の日常に根付いた存在でした。そのシンプルで機能的なデザインは、現代まで脈々と受け継がれています。
一説には、クロマーの縞模様や格子柄は、邪悪なものを寄せ付けない魔除けの意味が込められているとも言われています。伝統的な赤と白の組み合わせは、もっとも古典的なデザインで、今も多くの人に愛されています。
クロマーの用途 〜生活のあらゆる場面で活躍〜

クロマーの最大の特徴は、その用途の幅広さです。一枚の布が、驚くほど多機能に使われる様子は、まさに「万能布」という呼び名にふさわしいものです。
1. 身につける
- スカーフやマフラー:防寒や日よけ、風よけとして首に巻く。
- ヘッドスカーフ:農作業中や強い日差しの中で頭部を保護。
2. 荷物を運ぶ
- 袋やバック代わりに:クロマーで荷物を包み、肩に担いだり背負ったりします。
- 赤ちゃんを抱く布:母親がクロマーで赤ちゃんをおんぶする光景は、カンボジアの日常風景のひとつです。
3. 実用的な道具として
- 即席のタオル:汗をぬぐうタオル代わりに。
- ピクニックシートや敷物:地面に広げて座る際に使用。
4. 儀式や宗教行事で
- 僧侶への供物を包む布:仏教儀式で供物を清らかに保つために使用。
- 葬儀や祝い事での装飾:色とりどりのクロマーが会場を彩ります。
このように、一枚のクロマーは生活のあらゆる場面で重宝されています。
クロマーに込められた文化的意味

クロマーは単なる実用品ではありません。そこには、カンボジア人の価値観や文化が色濃く反映されています。
カンボジア人にとって、クロマーは「家族のぬくもり」や「思いやりの象徴」として特別な意味を持っています。例えば、旅立つ家族や友人にクロマーを贈るのは、無事を祈る気持ちが込められているからです。
また、クロマーは貧富の差を越えてすべての人が手にすることができる「平等の象徴」でもあります。裕福な家庭の子どもも、農村の子どもも、同じようにクロマーを身につける。それはカンボジア社会において、階級を越えた共通のアイデンティティとも言えるでしょう。
現代のクロマー 〜ファッションと伝統の融合〜

近年では、クロマーは伝統的な用途に加えて、ファッションアイテムとしても注目されています。デザイナーによるモダンなアレンジが施され、スカーフやバッグ、テーブルクロス、インテリア用品として世界中に広がりつつあります。
特に観光客の間では、お土産としてクロマーを購入する人が増えています。手織りの温かみと独特のデザインは、日本でもファッションアイテムとして取り入れやすく、エスニックな雰囲気を演出するアクセントとして人気があります。
また、NGOや社会的企業がクロマーの生産を通じて、農村部の雇用創出や女性の自立支援に取り組むなど、社会貢献活動の一環としても重要な役割を果たしています。
まとめ
クロマーは、カンボジア人にとって単なる布ではありません。それは日々の生活に根ざした知恵であり、文化であり、人々の心をつなぐ大切な絆です。
一枚の布に込められた歴史や想いは、時代を越えて今も生き続けています。そして、現代に生きる私たちにとっても、使い方ひとつで日常を彩り、豊かな時間をもたらしてくれる存在です。
もしカンボジアを訪れる機会があれば、ぜひお気に入りの一枚を手に取ってみてください。その布に触れるたびに、遠い国の文化と人々の温もりを感じられるはずです。