カンボジアを旅すると、街の看板や人々の会話から聞こえてくる不思議な響きに気づくはずです。それがカンボジアの公用語である「クメール語(Khmer)」です。
独特な文字とリズミカルな発音、そして温かみのある表現が特徴のクメール語は、カンボジア人の生活と文化に深く根ざしています。しかし、世界的にはあまり知られていない言語のひとつでもあります。
この記事では、クメール語の歴史や特徴、面白い表現、そして文化的な背景について、初心者にもわかりやすく解説します。
クメール語の基礎知識

クメール語は、約1,600万人のカンボジア人をはじめ、タイ、ベトナム、ラオスなどの周辺国に住むクメール系住民によって話されています。モン・クメール語族に属し、東南アジア最古の言語体系のひとつです。
カンボジアでは「プレア・リーチ・アナチャック・カンプチア(カンボジア王国)」の公用語として、政府機関や教育、メディアなど幅広い場面で使用されています。
クメール語の特徴
文法は比較的シンプルですが、日本語にはない発音もあるため難しく感じることもあります。
歴史的背景から、タイ語とクメール語には共通している単語が多くあります。
現地の人は、タイ語のドラマなどを見るとなんとなく内容がわかると言います。

クメール文字は、一見するとアート作品のような優雅なカーブと装飾的な形状が特徴です。
この文字は、日常生活はもちろん、寺院の壁画や石碑にも刻まれ、カンボジアの歴史と文化を伝えてきました。
1.声調がない
タイ語やベトナム語と異なり、声の高低による意味の違いはありません。
2.独自の文字体系
クメール文字は、古代インドのブラーフミー文字を起源とし、独特の曲線美を持つアルファベットのような形をしています。
3.母音と子音の組み合わせが複雑
33の子音と24の母音記号、さらに特殊な発音記号があり、読み書きの習得は簡単ではありません。

クメール語の基本挨拶
- こんにちは:ជំរាបសួរ (chomreabsuor, チョムリアプ・スオ)
- ありがとう:អរគុណ (aw kun, オー・クン)
- さようなら:ជំរាបលា(chomreablia, チョムリアプ・リア)
文字の読み方は一見難しそうですが、母音や子音を覚えてしまえば、規則的に組み合わせることができます。
また、クメール語は発音において、日本語にない音も多く存在します。例えば「ជំរាបសួរ(chomreabsuor)」の発音は、「チョムリアプ・スオ」と聞こえますが、実際はもっと柔らかく、口の奥で響くような独特の発音です。
クメール語の豆知識
クメール語は単なるコミュニケーション手段ではなく、文化や宗教、社会的慣習と深く結びついています。
クメール語と仏教のつながり
カンボジアの仏教儀式では、伝統的なクメール語の経文が読み上げられます。その響きは非常に荘厳で、人々の心を静かに整える力があります。
また、クメール語は祝祭や結婚式などの場でも重要な役割を果たします。伝統的な歌や詩は、今もなおクメール語で受け継がれ、人々の心に残り続けています。
敬意を示す独特の言い回し
クメール語では、相手に敬意を示すために、動詞の前に特定の語を加えたり、話す相手の年齢や地位によって言葉を使い分ける文化があります。
年上や目上の人には「បង(bong)」、年下には「អូន(oun)」と呼びかけ、相手との関係性を大切にします。
現代におけるクメール語の課題

経済発展が進む中で、カンボジアでは英語や中国語などの外国語教育が盛んになっています。その一方で、クメール語を正しく書けない若者が増えているという課題も浮かび上がっています。
政府は学校教育でクメール語の読み書きを重視していますが、都市部では英語教育が優先される傾向にあり、伝統的な言葉の継承が難しくなっているのが現状です。
しかし、最近ではクメール語の美しさや独自性を再認識しようとする動きも広がってきています。詩や歌、伝統舞踊とともに、クメール語の持つ文化的な価値が再評価されているのです。
まとめ
クメール語は、カンボジアの人々の心をつなぐ大切な言葉です。その美しい文字や独特の表現、文化との深い結びつきは、他の言語では味わえない特別な魅力があります。
もしカンボジアを訪れる機会があれば、ぜひクメール語で簡単な挨拶を試してみてください。それだけで、現地の人々との距離がぐっと縮まるはずです。
言葉は文化への扉です。クメール語という扉を開くことで、カンボジアの人々の温かさと歴史の深さに、きっと出会うことができるでしょう。